サイレントヒル

サイレントヒル
サイレントヒル
  • アーチスト: ラダ・ミッチェル
  • 発売日: 2006/11/22
  • 売上ランキング: 16450
  • おすすめ度 3.5

最愛の娘・シャロンが、悪夢にうなされて叫ぶ「サイレントヒル……」という奇妙な言葉。母親のローズはその謎を解くため、シャロンを連れてウェストバージニア州に実在する街・サイレントヒルを訪ねる。しかし、全くひと気がなく、深い霧に覆われたその街は、一度足を踏み入れたら抜け出すことのできない呪われた迷宮だった。
そこで失踪してしまったシャロンの身を案じるローズは、おそるおそるサイレントヒルを探索するうちに、想像を絶する恐怖に見舞われていく—。
なぜ、シャロンはこの街で姿を消したのか?なぜ、この街は廃墟と化したのか?30年にも及ぶ、サイレントヒルに隠された呪われた秘密とは?果たして、ローズはシャロンを見つけ出し、この街から脱出することができるのか……。

お気に入り度:rating_50.gif


どうして今まで、観なかったのか!
ホラー好きを公言しておきながら、何故これを1年半以上観ないでいられたのか!!
ホラー映画にある美学と悲劇が好きだと言っておきながら、どうしてこれを観なかったのか!!
もう、本当に、今までこの映画をスルーしていた自分に殴りかかりたい!

私はゲームの「サイレントヒル」は、1を途中で挫折してます(笑)
アクション要素が強いものは苦手です。つか、アクションが苦手です(笑)
なので、どうにも逃げ切れなくて、疲れて飽きちゃうのですよ。
だけど、ゲームの独特の世界観はすごく印象に残っていました。
ゲームの舞台となる廃墟は、広いんだけれど、絶望的な閉塞感に満ちていて、逃げ出せそうで逃げ出せない感じ。
それを、この映画を観ている間中、常に感じている事になりました。

この映画を作った監督さんのクリストフ・ガンズ氏は、元々原作のゲームが大好きだったそうです。
その原作である「ゲーム」へのリスペクトを強く感じる映画でした。
「ゲーム」としての「展開」方法が、映画でも使われているんですよね。
例えば、サイレントヒルの中、行方不明になったシャロンを探して、ローズが走り回るんですが、彼女の走りに「疲れ」が存在しないのです。
常に全力疾走で、スピードを落とすことなく、どこまでも走って行けてしまうんですよ。
まるで「ゲーム」の「キャラクター」のように。

そして、ローズは、ちりばめられたヒントの断片を上手いこと見つけ続けて、真実に導かれていくんです。
途中で投げ出した「サイレントヒル1」でも、ヒントを手に入れて、その場所に行くと、また別のヒントを見つけて・・・、というとてもゲームに忠実な展開方法です。
これを堂々と映画にしちゃったのがすごいと思います。いい意味で。

んで、ローズの行動原理が、ただひたすらに「シャロンを見つけたい」ただそれだけなのも、とてもわかりやすいです。
ある映画感想サイトで、このローズの行動原理である「シャロン」への母親としての愛情が、「愛情」ではなく、我が強すぎて逆に相手の事を本当に考えていない独善的な自己満足にすぎない、とかかれていました。
私は、この「サイレントヒル」がとても気に入ったので、批判的な側面から書かれたその感想を読んだ時は、しょぼーんとしましたが、確かにそうだなぁ、とも思います。
ローズは、シャロンの養母であり、実母ではありません。
冒頭、シャロンの治療の為に、夫に黙ってサイレントヒルを訪れたローズですが、時刻は既に夜ですよ。
夢遊病的な病を持っている子供を連れ出し、夜遅くにサイレントヒルという廃墟に連れて行って、それが治療になる、なんて考える大人は珍しいと思います。
確かにここら辺のローズのシャロンへの溺愛ぶりは、きちんと物事を見ていなさすぎる「押しつけ的なエゴによる愛情」以外の何者でもないと思います。
それでも、この「サイレントヒル」が面白いと思えるのは、その「母親なんだもん!」的なエゴによる愛情を、最後まで堂々と貫き通す潔さがあるからです。
とにかくローズは、徹底的にシャロンにとって「母親なんだもん!」の愛情を絶やすことがありません。
そこに一切の疑いも、矛盾も、迷いもないです。
「だって母親なんだもん!」というローズの声が聞こえてきそうなほどに(笑)

舞台となるサイレントヒルの世界観も良かったです。
常に霧が立ちこめているようにぼやけていて、はっきり見渡せる事がないです。
不気味に響くサイレンの音が、暗黒化のお知らせ。
すごい親切です(笑)
この仕組みにいち早く順応するローズもすごいです(笑)
暗黒化したサイレントヒルで遭遇するクリーチャー達もなかなか味があって良いですよ。
ホラー化した異世界を美しく表現していると思います。
このホラー世界の中で、ぶれる事無く「母親だもん!」な気持ちだけで走り続けるローズが良いです。

ただ、正直、シャロンの前身であるアレッサが、何故周りからそんなに迫害されていたのかが、きちんと描かれていないので、アレッサが死神化してしまうまでの憎しみを持つ背景が弱いと思いました。
生まれた時から、不思議な力を持っていたとか、アレッサのせいで何か事件が起きたとか、もしくは魔女狩りをしないと宗教価値が保てない何かがあったとか、そういう理由が語られていないので、アレッサの暗黒化した怒りと力の意味が薄かったなぁ。
そこ、もっとなんかあったら、もっとよかったのに。
あと、ラスト、教会でローズの宗教団体への反撃がさ。
べらべらしゃべりまくって矛盾を指摘って、なんか違和感があった。
確かに、あの宗教団体に対して、一言言わなくちゃ気が済まない!って気持ちはわかるけど、あんなに丁寧に教えてあげる必要はないと思う。
観ている観客にとっては、そんな矛盾は最初からわかっているワケだから、それを実際にべらべらしゃべりまくられても、カタルシスは無いよね。
映画として必要なシーンだと思わないけど、これがゲームだったとしたら、このシーンはムービーとして挿入されてるシーンだったかもね。
だったら、これも、ワザとなんかな、ひょっとして。

んで、とにかくラストが良かったです。
シャロンを乗せた車が走り出して、「あー、じゃあ、徐々に霧が晴れて戻っていくんだな」と思ったのに!
霧は晴れないのです。
ずっと、サイレントヒルの空気のままなの。
車の中のシャロンも、シャロンではなくなっている。
赤ん坊のように指をくわえて、胎児のように丸くなって眠っている。
シャロンと死神アレッサが同化した、新しい存在になってしまったようなのね。
ローズはそれに気がついているのに、何も言わない。
霧の中、車を走らせて、自宅に戻る。
でも、いるはずの夫も、夫以外の他の住人も、誰もいない。
夫のいる現実世界とは、薄皮一枚分ずれている次元にいるらしくて。
夫は、時々ローズの気配を感じるものの、次元の「ずれ」は、修復されない。
シャロンは、自分の家のリビングのソファーにただ座る。
アレッサと同化したシャロンは、珍しそうに家の中を見回す。
ここで、ローズは、アレッサと同化したシャロンの母親として生きていく。
「子供にとって母親は神も同然」は、ローズが言った言葉。
母親である事の絶対的な自信と自負。ローズは、ずっと母親のまま。

ここまでくると、ローズが「自分は母親だから」という気持ちだけで、アレッサを救った事が皮肉にさえ思えてくる。
それはまるで、「母親は神格化してかまわない」と言っているのと同じに聞こえる。
死神アレッサが母親ローズを取り込んだように思っていたけれど、ひょっとしたら、母親ローズが死神アレッサを永遠の子供として取り込んだのかもしれない。
ソファーに座るローズの顔からは、安堵も絶望も読み取れない。
彼女は何を思っていたんだろう。

これは、もうね。
本当に、素敵なホラー映画だと思うよ。
ほとんどのホラー映画は、ラストが「助かって終わり」「助かったと思ったら、やっぱり捕まって終わり」「倒したと思ったら、実は生きているよ」のどれかになるけど、「サイレントヒル」は、どれにもならない。
つか、わからない。
だから、いい。
ああ、お願いだから「サイレントヒル2」なんて映画は作らないで欲しい。
これは、これでいい。これだからいい。

そんな余韻に浸りながら、エンディングテロップを観ていたけれど、このエンディングテロップが、もんのすごい良い出来!
これを最後に見せるなんて、なんてわかってるんだろう!
最後まで、引きつけられる作りでしたよ。とても。
超お気に入り!!

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