オテサーネク

2011年4月12日

民話を基にしたダークホラー。子供のいない妻を慰めようと、夫・ホラークは木の切株を赤ちゃんの形に削ってプレゼントする。夫人がその切株に本物の子供のように接する内に、チェコの民話と同じように切株は生をうけ、周りのものを食べ尽くしていく…。

お気に入り度：
はー。びっくりした。
まさかこんな話だとは。
熱を出してつらくて苦しいのになかなか眠れない時に見る悪夢みたいな映画だった。

いろんな所で、面白い面白いとは聞いていたけれど、こんなにグロイものだとは(笑)
なるべく前知識をいれないで見たのが大正解。
ころころ変わる展開にすっかりいい具合に翻弄された。

最初に出てくる子供のいない夫婦。
子供に関しては、夫はもうあきらめていて、「子供を与えれば妻が落ち着く」程度の思いしかない。
妻の方は、もうほんとに喉から手が出るほど子供が欲しい。
妊娠もしてないのに、赤ちゃん用品を全て揃え終わっちゃってるほどに。
で、ある時、夫がみつけた木の切り株が、赤ん坊の形に似ていたもんだから、妻の慰めになれば程度の軽い気持ちで見せたところ、途端に「私の赤ちゃん！」と、瞳孔開きっぱなしになる奥さん。
すぐに産着を着せて、パウダーをはたいて、大事に大事に抱きしめる。
その常軌を逸した溺愛ぶりに夫はぞっとするものの、それでもそれを妻から取り上げる事ができない。
町の中で切り株赤ちゃんを連れて歩かれたら、周りからどんな風に思われちゃうのかっていう恐怖から、別荘でだけ赤ちゃんとすごす事にさせるけど、妻の方はもう、片時も離したくない。
なので、妻は近所に妊娠したと嘘をつき、つめもので徐々にお腹を大きくさせて、出産する芝居までしちゃう。
というわけで、近所的にはすっかり子供が生まれたという事になったので、ベビーカーに着飾った切り株赤ちゃんを入れてお買い物やら散歩やらにでかける妻。
さらになんと、この時、妻が出産の演技をした後、不思議な事に切り株の赤ちゃんが実際に動きはじめ、しゃべりはじめ、ミルクを飲み始める。

私的には、切り株赤ちゃんを近所に隠す為に、この夫婦が猟奇殺人かなんかする流れなのかな、と思ったら、切り株赤ちゃんは、出産してもらった事で、命を得て、動くことができるようになってしまうのでした。
このタイミングから、近所の可愛くない女の子が「オテサーネク」という童話を読み出し、その話が、切り株赤ちゃんとどんどんリンクしていく。
切り株赤ちゃんは、口だか鼻だか目だかにみえる顔にあたる部分にある枝を、巨大な口に変化させて、グロテスクな歯や舌を動かして、何でも食べる。信じられないほどどん欲な食欲。
かと思うと、その枝の真ん中から、ぎょろりと目玉を出して、まわりをぎょろぎょろみてたりする。
がさがさの枝をゆらして、赤ちゃん的動きをする切り株の不気味な事、不気味なこと。
コマ撮りアニメーション手法を使って動きを出しているんだけれども、切り株自体の、いびつながら、確かに赤ん坊っぽく見える形との相乗効果で、ぞっとするほど気持ち悪い動きになってる。
この動きが本当に気持ち悪い。
それでなくても映画全体に、妙に薄暗いグロテスク感があって、どんな食べ物もすごいまずそうに見えるし、出てくる人たちは誰も恐い。

んで、気が付くと、映画の中心は、切り株赤ちゃんを産み出した夫婦ではなく、童話を読む女の子になっている。
女の子は生意気で、可愛げなくて、大人の世界に興味津々で、こずるい。
なのに、なんでだか、この切り株赤ちゃんと心が通じ合ってしまう。
んで、なんのかんのあって、ラストは、童話と同じように、キャベツ畑のおばさんにクワで退治されて終わる。
この映画のラストは、実はちゃんと終わってない。
童話と同じように、キャベツ畑のおばさんんがクワをもって、切り株赤ちゃんが隠れている地下に向かう所で、唐突に終わる。
でも、まぁ、もう流れ的に、童話と同じ結末しか迎えようがないし、それがわかっているのであれば、あえてその描写は必要ないんだろうし、こういった放り出される感覚は非常に面白い。

最初、中心かと思われていた夫婦は中盤からあんまり出てこなくなって、あんなに切り株赤ちゃんに執着していた奥さんも、地下に切り株赤ちゃんが隠されてしまったのを知っているのに、助けに行ったりしてない。
んで、結局この夫婦は切り株赤ちゃんに食べられちゃう。
食べられる直前に、夫は、唐突に父性愛に目覚め、「息子よ！」とか言って、食べられる事に抵抗しない。
もんのすごい居心地悪い(笑)　見てていーのか、こんなの、とか思う。
これは、多分、自分が小さい頃に見た悪夢か、どこかの熱にうかされた子供が見ている悪夢だと思う。
ほんとに切り株赤ちゃんがものすげー気持ち悪い。
なのになんだか、人間食べるまえに、綺麗に手（枝）洗い出したり、おもちゃで遊ぶ姿は、まんま赤ちゃんだったり、可愛いと思わないでもなくて、なんだか、いろいろわからなくなってくる(笑)
すげーなー。
なんか、もう、本当に童話的な悪夢を見た。
私はこれは、超お気に入りですよ。