母。愛ゆえの妄想。その3

可愛いタロウが、何者かに誘拐された。

知らせを受けて、会社を飛び出す母。
しかし、タロウのいる所までは電車を乗り換え30分はかかってしまう。
その間もタロウが危険な目に遭うのではないかと心配と不安と怒りが頂点に達した時、母は自らの姿を変容させる。

バリバリと背中から黒い羽がつきだし、徐々に肌が黒く、瞳は赤くひかり、巨大化しつつ、手足の爪が鋭くのびる。
母としての姿を捨てて、タロウを思う心のまま、不安と哀しみと強い怒りの権化と化した。
ガーゴイル

巨大な尻尾で道路を叩き、思い切り翼を広げて空を切り裂かんばかりに飛び立っていく。

巨大な黒い影を地上に落としながら、目を赤く光らせ、母はタロウを探す。

すぐにタロウが誘拐されたとされる上空に到達。

稲妻より深く、獣より悲しい咆哮をあげる母。
巨大化した耳が、地上のありとあらゆる音を吸収する。

母の目がさらに赤く輝く。
タロウの可愛い声が聞こえた。

声の方向に猛スピードで飛び出す母。
速度が音速を超えた為、衝撃波が空に響く。

車で移動中の誘拐されたタロウ。

その車に大きな黒い影がかぶさり、巨大なかぎ爪で車ごと確保。
化け物の赤く光る目に、安堵の色が浮かぶ。

その時。
警察の一団が、変容した母に向けて発砲。
その警察の一団は、タロウの誘拐犯を追っている最中、恐ろしい化け物に遭遇したのだ。

何発かの銃弾を受け、思わずうめき声をあげる母。

車の中の誘拐犯とタロウを確保した警察は、すぐさま距離を置き、さらなる攻撃の準備に入る。

すると。タロウが、変容し、人としての姿を放棄したソレに向かって
「おかぁちゃあーーーーん!」と叫んだ。

タロウは、警察の手からするりと抜け出すと、全速力で駆け出す。
「おかぁちゃあーーーーん!!!」
両手を広げて、巨大な化け物に走って行く。

驚く警察の一団。
化け物を撃とうとした手が止まる。

化け物は、黒い鋭いかぎ爪のある手を子供に伸ばす。
子供が化け物にやられてしまう!そう警察が思った時、化け物の体が徐々に縮み、人の姿に変わっていく。

子供とそれが抱き合った時、そこには、母と子の姿があった。

終わり。

もう大号泣。
ガーゴイルの姿だっつーのに、母だとわかるタロウが愛しい。